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東京高等裁判所 昭和44年(行ケ)38号 判決

以下は、判例タイムズに掲載された記事をそのまま収録しています。オリジナルの判決文ではありません。

〔編注〕一 特許庁における手続の経緯マリオ・ナヴア(英国人)は、昭和三十四年五月十三日、名称を「合成糸製造方法における改良」とする発明につき、一九五八年(昭和三十三年)五月十三日英国にした特許出願に基づく優先権を主張して、特許出願をし、その後、原告らは同人から本願発明についての特許を受ける権利を譲り受け、昭和三十五年三月十七日特許庁長官にその旨の届出をしたところ、昭和三十六年四月十四日、拒絶査定を受けたので、同年七月二十二日これに対する抗告審判の請求をし、昭和三六年抗告審判第二、一二九号事件として審理されたが、昭和四十三年十一月十三日、「本件抗告審判の請求は、成り立たない。」旨の審決があり、その謄本は、同年十二月四日原告らに送達(出訴期間は昭和四十四年四月三日まで延長)された。

二 本願発明の要旨

糸を加撚し、撚りを固定し、次に解撚し、その後直ちに、糸の十分な捲縮を発現することなく、かつ、糸を十分に収縮させることなしに、取出ロールに送ることにより、嵩高糸を製造する方法において、上記の工程で作られた巻縮糸を次に該取出ロールから巻取速度より一〇〜三〇%だけ大きい速度で巻取パッケージへ過剰供給してパッケージに巻き上げ、さらに次いで、巻き上げたパッケージ糸を高温液体または高温ガスによる固定処理にかけることを特徴とする安定化した嵩高糸の製造法。

三 本件審決理由の要点

本願発明の要旨は前項掲記のとおりと認められるところ、昭和三三年特許出願公告(公告昭和三十三年四月七日)第二、三四八号公報(以下「引用例」という。)には、糸を加撚し、糸を加熱することにより撚りを固定し、次に解撚し、その後直ちに、糸の十分な捲縮を発現することなく、かつ、糸を十分に取縮させることなしに、取出ロールに送り、次に該取出ロールから糸を巻取速度より大きい速度でパッケージへ供給してパッケージに巻き上げる嵩高糸の製造法が記載されており、本願発明と引用例とは、本願発明において、(1)パッケージへの過剰供給の程度が一〇〜三〇%である点および(2)パッケージに巻き上げた後、さらに次いで、糸を熱流体処理にかける点で相違するが、その他の点において一致している。しかし、一〇%またはそれ以上の程度の過剰供給でパッケージに糸を供給してパッケージに巻き取ることは、本願出願前の周知事項であり、また、高熱液体またはガスによる処理にパッケージをかけることも、本願出願前の常套手段であり、さらに、これらを結合させることによつて格別の作用効果を奏するものとも認められないので、上記相違点には発明の存在は認められない。したがつて、本願発明は、引用例に記載されたものと同一発明の域を出ないので、旧特許法(大正十年法律第九十六号)第四条第二号に該当し、同法第一条の新規な発明と認めることができない。

〔判決理由〕(本件審決を取り消すべき事由の有無について)

二 原告らは、本件審決には、その主張の点に判断を誤つた違法がある旨主張するが、その主張は理由がないものといわざるをえない。すなわち、引用例の記載内容が審決認定のとおりであること、および本願発明と引用例記載のものとの相違点である個々の技術手段がいずれも本願出願前の周知事項ないし常套手段であること、嵩高フイラメント糸の製造方法において、巻縮糸を、取出ロールから巻取パッケージへ過剰供給する程度を一〇ないし三〇%とすること、および取出ロールに送られた巻縮糸を、巻取パッケージに巻き上げることは、いずれも本願出願前周知の事項に属することは明らかであり、その間に他の工程を入れないことについても格別の技術的意味を認めることはできない。また、パッケージに巻き取られた巻縮糸をパッケージのまま高熱液体または高温ガスによる固定処理にかけるというようなこの技術が本願出願前の常套手段であつたことは原告らの認めて争わないところであり、パッケージに巻き上げられた撚糸に熱流体処理を施す場合に、一旦これを別のパッケージに巻き返すなど、他の工程を挿入するというようなことは、格別の理由がない限り、技術常識上考えられないところといわなければならない。原告らは、この点につき、引用例記載の製法によるパッケージ糸をそのまま熱固定処理にかけるならば、非常な収縮を起こして、パッケージから巻きほどくことができなくなる等の支障が生ずる旨主張するが、引用例における過剰供給の程度(パッケージ糸の緩さ)が右のような支障を招くほど低いものであると断ずるに足る資料がないうえ、この程度を一〇ないし三〇%とすることが本願出願前周知の事項に属することは、前記のとおり、当事者間に争いがないところである以上、原告らの右の主張は採用することができない。したがつて、本願発明において、巻き取られたパッケージ糸に、他の工程を挿入することなく、高温処理を施す点にも、公知技術の寄せ集め以上の構成上の技術的意義を見出すことはできない。原告らは、さらに、本願発明の方法によれば、その主張の特段の作用効果が奏せられる旨主張するが、仮撚嵩高糸に高温湿潤条件下で熱処理を加えれば、伸縮性が減少し、トルクが除かれ、一定の形態に固定されて安定性が与えられることは、この分野における技術常識であり、この熱固定処理を如何なる段階で行なうかは、単なる設計上の問題にすぎないと言うべきところ、パッケージ糸を熱処理にかけることが本願出願前の常套手段であること前記のとおりである以上、原告ら主張の作用効果をもつて、特段のものと見ることはできない。したがつて、本願発明は、引用例に記載されたものと実質的に同一発明であると認めるのが相当である。

(むすび)

三 叙上のとおりであるから、その主張の点に判断を誤つた違法のあることを理由に本件審決の取消を求める原告らの本訴請求は、理由がないものというほかはない。よつて、これを棄却する。

(三宅正雄 武居二郎 友納治夫)

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